【年金時事通信】18-002号 (作成日:2018年4月4日) 「高齢化する貧困(上)年金の枠組み内で対応を」2018年3月26日 日経朝刊15面 ○経済教室欄における小塩隆士・一橋大学教授による論説である。「生活保護の受給者約210万人のうち、65歳以上の高齢者は約100万人で半分近くを占める。…公的年金による所得保障では対応しきれない貧困化が高齢者の中で進みつつあるようだ。」としている。 ○この状況に対し、教授は、「貧困の高齢化への対応は、生活保護ではなく公的年金を中心にして検討すべきだと考える。…生活保護は高齢者にとっても現役と同様、あくまでも緊急避難的な仕組みと位置づけるべきだ。」としている。正論であり、賛同できる。 ○だが、「公的年金の所得保障機能を強化」する手段として、「第1に短時間の非正規労働者にも被用者保険の適用範囲を拡大し、公的年金というセーフティーネット(安全網)から外れるリスクをできるだけ抑える必要がある。」としているのは、いかがなものか。 ○教授は、マクロ経済スライドで「基礎年金だけしか受給できない…高齢者の場合、…裁定された年金額がその後大きく削減される。皮肉なことに所得面で不安を抱える高齢者ほど、公的年金による所得保障は手薄になりかねない。」と正しく問題を指摘している。 ○であるなら、第一に考えるべきことは、被用者保険の適用拡大ではなく、基礎年金の位置付けや機能回復ではないのか。労働市場では、フリーランスなど「被用者」に当たらない働き方が、今後は増加すると想定される。そうした変化への対応が急務であろう。 ○そのためには、軽視されている基礎年金に焦点を当てて考える必要がある。まず、60歳までの基礎年金の保険料拠出期間を、少なくとも65歳、さらには、被用者年金の加入可能期間までには延長する必要がある。それだけでも基礎年金は大きく強化されるだろう。 ○これを阻んでいるのが、基礎年金保険料に対する2分の1の国庫負担である。だが、一方で、教授が危惧しているように、生活保護に対する国庫負担は増加する見込みである。公費負担は、国民の安心・安全を高める立場から、総合的に検討する必要があるだろう。 ○マクロ経済スライドのあり方についても、再検討すべきであろう。現行の基礎年金と被用者年金の財政が分離されていない状況では、被用者年金のマクロ経済スライド減額が終わっても、土台の基礎年金の方の減額が続くという奇妙奇天烈なことが起きていく。 ○もっと展望すべきことは、今後、AIの普及拡大によって、働き方に大きな変化が生じると思われることである。現在の仕事のうちの少なからぬ部分が、AIによって代替されると想定されており、すでに、そうした動きは、あちこちで目につくようになっている。 ○その結果として、多くの人々が、職務の転換を迫られるようになるものと想定される。一時的には収入源を失うことが危惧されるので、識者の中には、BI(ベーシックインカム)の導入による対応が不可欠であると危機感を訴える人も、少なくない状況である。 ○こんな状況からすると、一時的避難の生活保護と、防貧対応の基礎年金とを、総合的に再編して、ベーシックインカムの構築を目指す必要があるのではないか。少子高齢化の先頭を走る日本には、その責任とともに、各国の範となる期待が向けられよう。(以上)
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